まな先生解説
こころ質問
すい要点整理
注意点の全体像:貼る前・貼る時・貼った後で分けて見る
| 段階 | 主な注意点 | 失敗した場合に起きること | 本記事の該当箇所 |
|---|---|---|---|
| 貼る前 | NDA条項・個人情報・預かり文書・プランの確認 | 秘密保持義務違反、個人情報保護法違反 | 5問診断 |
| 貼る時 | 立場・自社規模・依存度・適用法令の固定 | 一般論しか返らず実務で使えない | 立場固定プロンプト |
| 貼った後 | 条文の照合、AIに無理な7項目を人が確認 | 旧法・架空条文をそのまま採用 | 7項目チェックリスト |
| 依頼判断 | 契約金額に応じた弁護士・SaaSへの切り替え | 高額契約を無検証で締結 | 損益分岐の表 |
- 入力可否の判断が先: NDA条項・個人情報・預かり文書かどうかを確認してから貼ります(後述の5問診断)。
- 立場と条件を固定する: 「不利な条項を指摘して」だけでは一般論しか返りません。甲乙どちらか、自社規模、依存度、適用法令まで与えます。
- AIに無理な領域を人が見る: 別紙との齟齬、印紙税、取適法・フリーランス法の必須記載、条ズレは、テキスト1本では原理的に判定できません。
契約書チェックにChatGPTを使う前の5問診断チャート

Q1. 相手方とNDAまたは秘密保持条項付きの契約を締結済みか
- Yes → Q2へ
- No → Q3へ
Q2. その条項に「第三者への開示禁止」「目的外利用禁止」「生成AIへの入力禁止」のいずれかがあるか
- Yes → 原則NG。相手方の事前承諾を得るか、学習不使用が契約で担保された環境(Business/Enterprise、API)に限定します。近年のNDAひな形には「生成AIへの入力禁止」条項が入り始めており、締結時期が新しいほど要確認です。
- No → Q3へ
Q3. 個人情報(氏名・住所・マイナンバー・要配慮個人情報)が含まれるか
- Yes → 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)によると、個人情報取扱事業者がプロンプトに個人情報を入力する場合、特定した利用目的の達成に必要な範囲内であることを確認する必要があり、範囲を超える取扱いは個人情報保護法違反となり得ます。要配慮個人情報は原則入力しません。
- No → Q4へ
Q4. 自社が当事者の契約か、他社から預かった契約か
- 自社が当事者 → Q5へ
- 他社から預かった → 委託先管理義務・第三者提供の論点が追加で発生します。預かり文書を無断で外部AIに入力するのは、自社契約より一段リスクが高い行為です。社内の委託契約に「再委託の禁止」がないかも確認します。
Q5. 使っているプランは何か
| プラン | 学習利用の既定 | 契約書チェックでの扱い |
|---|---|---|
| Free / Go | 学習に使われ得る | データコントロールで必ずオフ。2026年6月22日から広告表示も開始 |
| Plus / Pro | 学習に使われ得る | 同上。オフ設定+一時チャットを標準運用に |
| Business / Enterprise | 既定で学習不使用 | 契約レベルで遮断済み。実務ではここに寄せる |
注意
5問のうちQ2で「Yes」が出たら、他の答えがどうであれ原文投入は止めてください。マスキングは個人情報リスクを下げますが、契約構造そのものが秘密情報である場合(独自の報酬体系、特殊な知財条項など)は、甲乙置換しても秘密情報の開示に当たり得ます。
ChatGPTが絶対に見つけられない7項目チェックリスト
| # | 項目 | なぜAIに無理か | 人間が何を見るか |
|---|---|---|---|
| 1 | 別紙・覚書・注文書との齟齬 | 貼っていない文書は読めない | 本体と別紙の金額・納期・仕様の食い違い |
| 2 | 印紙税の要否 | 紙か電子かは文面から判別不能 | 国税庁No.7140/7141で号数と税額を確認 |
| 3 | 取適法(2026年1月施行)の適用有無 | 自社の資本金・従業員数を知らない | 製造委託等300人/役務提供委託等100人の従業員基準 |
| 4 | フリーランス法の明示事項の欠落 | 学習データが2024年11月施行前提のことがある | 業務内容・報酬額・支払期日等の明示義務 |
| 5 | 条ズレ・旧法表記 | もっともらしく旧条文を書く | e-Gov法令API v2で条文番号を機械照合 |
| 6 | 相手方の与信・実在性・反社チェック | 契約書の外にある情報 | 登記情報、決算、反社チェックサービス |
| 7 | 交渉の力関係と落としどころ | 過去のやり取りを知らない | 依存度、次回更新、担当者の温度感 |
印紙税は「紙か電子か」だけで結論が変わる
| 文書 | 金額 | 印紙税額 |
|---|---|---|
| 第2号文書(請負) | 1万円以上100万円以下 | 200円 |
| 第2号文書(請負) | 100万円超200万円以下 | 400円 |
| 第2号文書(請負) | 200万円超300万円以下 | 1千円 |
| 第2号文書(請負) | 300万円超500万円以下 | 2千円 |
| 第2号文書(請負) | 500万円超1千万円以下 | 1万円 |
| 第7号文書(継続的取引の基本契約) | ―(期間3か月超または更新の定めあり) | 4千円 |
| 電子契約 | ― | 0円 |
条ズレの検証はe-Gov法令API v2で機械的にやる
2026年の法改正でひな形が古くなっている
- 手形払い等の禁止(従来は支払サイト短縮の指導どまり)
- 振込手数料の受託者負担の禁止
- 価格協議に応じない一方的な代金決定の禁止
- 資本金基準に加えた従業員基準の追加(製造委託等300人/役務提供委託等100人)
- 運送委託の対象追加
- 書面交付義務は、受託事業者の承諾の有無にかかわらず電磁的方法で可能に
注意
ChatGPTに「下請法の観点でチェックして」と投げると、旧法前提の回答が返る可能性があります。プロンプトに「2026年1月施行の中小受託取引適正化法(旧下請法)の観点も含めて」と明示的に書き、出てきた指摘は公取委の資料で裏取りしてください。
ChatGPT契約書チェックのプロンプトは「立場固定」で精度が変わる
汎用プロンプト(A)
立場固定プロンプト(B)
- 支払サイト(手形・相殺・振込手数料の負担を含む)
- 検収条項(検収期間、みなし検収の有無)
- 知的財産の帰属(著作者人格権の不行使、二次利用の範囲)
- 中途解約(予告期間、既履行分の精算)
- 損害賠償の上限(上限額、間接損害の除外)
契約書「作成」プロンプトで追加される注意点
- ひな形は公的機関のものを土台にする: 中小企業庁・公正取引委員会・各業界団体の公開ひな形を出発点にし、ChatGPTには差分だけを作らせます。
- 必須記載事項はチェックリストで潰す: フリーランス法の明示事項(業務内容・報酬額・支払期日等)は、生成物を見てからではなく、事前にリスト化して照合します。
- 締結前に必ず人が通し読みする: 生成された条文は条番号の重複・参照ズレ(「前条の定めにより」が別条を指す等)が起きやすく、通し読みでしか見つかりません。
検証を組み込んだ追加プロンプト
リーガルチェックの費用相場から見た損益分岐
| 契約金額 | 想定最大損失額の目安 | ChatGPT単独(Plus 3,000円/月) | AI契約書レビューSaaS | 弁護士スポット(5〜10万円/通) | 推奨 |
|---|---|---|---|---|---|
| 〜50万円 | 〜50万円+対応工数 | 残存リスク大だが損失も限定 | 過剰 | 保険料率10〜20%で割高 | ChatGPT+7項目チェック |
| 50〜300万円 | 50〜300万円 | 単独では不足 | 定型契約が多いなら有効 | 保険料率1.7〜10% | ChatGPTで論点整理→重要条項のみ弁護士 |
| 300万〜1,000万円 | 300万〜1,000万円超 | 一次スクリーニングのみ | 併用 | 保険料率0.5〜3.3% | 弁護士スポット必須 |
| 1,000万円超・継続基本契約 | 上限条項なしなら青天井 | 論点出しのみ | 併用 | 顧問(月5〜20万円)が合理的 | 顧問契約 |
補足
顧問契約(月5〜20万円)は、契約書レビューを複数件含むプランがあるため、年間の契約書数が多い事業者ではスポット依頼より安くなります。年12通以上レビューが発生するなら、スポット5万円×12=60万円と顧問月5万円×12=60万円が並ぶので、そこが一つの目安です。
AI契約書レビューと弁護士法72条の関係
- 報酬を得る目的があるか
- 対象とする案件が具体的な法律事件か
- サービスの機能・表示がどのようなものか
- サービスの利用者が誰か
- 自社の契約を自分でChatGPTに読ませる → 報酬を得て他人の法律事務を扱っていないため、通常問題になりません。
- 社内の他部署の契約をレビューする → 同一法人内の業務であり、通常問題になりません。
- 報酬を得て他社の契約チェックを請け負う → 非弁行為に該当するおそれがあります。副業での「AI契約書チェック代行」は特に注意が必要です。
立場別の運用ルール:会社員・個人事業主・中小企業
会社員
個人事業主・フリーランス
中小企業の法務・総務担当者
- 生成AI利用ガイドラインの策定(入力禁止情報の定義が核)
- Business/Enterpriseプランまたは API 環境の契約(既定で学習不使用)
- 本記事の5問診断を社内フォーム化し、入力前チェックを必須に
- 「AI一次チェック → 担当者確認 → 金額基準で顧問弁護士」の3段階フロー化
- 2026年1月施行の取適法に合わせた自社ひな形・発注書フォーマットの見直し
やってはいけないNG対応5つ
- NDA条項を読まずに相手方作成の契約書を貼る: マスキングしても、契約構造自体が秘密情報なら開示と評価され得ます。まず5問診断のQ1・Q2です。
- ChatGPTの法的判断をそのまま採用する: ハルシネーション率69〜88%(Stanford RegLab 2024)という数字の前では、条文根拠を原典で照合するまで「仮説」として扱うのが妥当です。
- 「下請法」前提の指摘をそのまま信じる: 2026年1月から取適法です。手形払い禁止・従業員基準・振込手数料の負担など、旧法前提の回答は実務で使えません。
- 「AIが違法と言っている」を交渉の根拠にする: 相手方への修正要求は、自社の言葉と条文根拠で行います。AIの出力は下書きに留めます。
- 報酬を得て他社の契約書チェックを請け負う: 弁護士資格がない場合、弁護士法72条に抵触するおそれがあります。




